大切な、あたりまえにそばにいた存在を亡くしてから、何をする気にもなれない。そんなあなたは今、自分がおかしくなってしまったのではないかと、不安を感じているかもしれません。

その無気力は、おかしなことでも心が弱いことでもありません。大切な存在を失ったとき、多くの人が経験する自然な反応です。 ご飯を作る気になれない、仕事に手がつかない、好きだったはずのことにも興味が持てない。そうした状態は、あなたの心が今、深い喪失と向き合っている証といえます。

布辻真規
公認心理師・臨床心理士布辻真規

自分が経験したことへの反応が当たり前だと知ることが、心の作業の第一歩でもあります。

「いつまでもこんな状態では困る」「早く元に戻らなければ」と、自分を責めてしまう方も少なくありません。しかし、悲しみの受け止め方や時間の流れ方には、決まった正解はありません。

この記事では、ペットロスによる無気力がなぜ起こるのか、どのような心と体のサインが現れやすいのか、そしてご自身のペースでの向き合い方を、公認心理師の視点を交えてお伝えします。同じ悲しみを知る立場だからこそお伝えできることも、あわせてお話ししていきます。

Haruca Pet Journal 執筆者
愛犬・愛猫とかけがえのないひとときを過ごすためのメディア Haruca Pet Journal

Haruca Pet Journalは、愛犬・愛猫とかけがえのないひとときを過ごしたいあなたのためのメディアです。5匹の愛犬を看取ってきた公認心理師・臨床心理士の監修のもと、ペットとの日々の過ごし方から、看取り・グリーフケアに関する記事まで執筆しています。

布辻真規 監修者
公認心理師・臨床心理士 布辻真規

5匹の愛犬を看取ってきた公認心理師・臨床心理士。ペットロスに関するグリーフケアが強みであり、カウンセラーとして、公立高校・通信制高校でのカウンセリング・心理的コンサルテーション、心療内科でのリワーク、子育て支援室での発達心理相談、流産・死産経験者のピアグループのサポートなど、多様な現場で心理支援に携わる。

ペットロスとは何か、ペットロス症候群との違い

ペットロスとは、大切な家族であるペットを失ったときに生じる、自然な悲嘆反応そのものを指す言葉です。悲しみ、涙、そして無気力感も、すべてこのペットロスという反応の一部にあたります。

一方で「ペットロス症候群」という言葉を目にして、自分は何かの病気になってしまったのではと不安になる方もいらっしゃるかもしれません。ですが、ペットロス症候群という診断名が医学的に定められているわけではありません。多くの場合、喪失によって心身に強い反応が現れている状態を指す通称として使われている言葉です。

注意

ペットロス症候群という診断名が医学的に定められているわけではありません。無気力になっていること自体が「症候群」という特別な状態を意味するわけではないのです。大切な存在を失えば、心が一時的に立ち止まり、何もする気になれなくなるのは、ごく自然な流れだと言えます。

数日間、何もできずに過ごしてしまった。それは病気の兆候ではなく、あなたの心がそれだけ深く、その子を愛していた証でもあります。悲しみの重さに、優劣や正解はありません。

次の章では、なぜこうした無気力が起こるのか、心の仕組みという観点から見ていきます。

ペットロスでなぜ無気力になるのか

大切な存在を失うという出来事は、心にとって処理しきれないほどの負荷がかかります。そのような大きなことに直面したときは、心が壊れてしまわないように、強制的に休みが必要だというサインとして、無気力という状態になることがあります。

何もする気になれない、好きだったことにも興味が持てない。それは、心が「今は休むときだ」と判断している証なのかもしれません。

布辻真規
公認心理師・臨床心理士布辻真規

休むことが苦手だと感じる人も多いですが、実は、「自ら休めること」は大切な心の力です。

どのような休み方が良いかは個人差があるので、必要な際は、考えを整理するお手伝いができればと思っています。

無気力を「今の自分に必要な反応」として受け止めてみてください。焦らず過ごすことが、結果的に回復への近道になることもあります。

愛する家族(ペット)がいなくなり無気力以外にも現れやすい心と体のサイン

無気力以外にも、心や体にさまざまな反応が現れることがあります。どれも珍しいものではなく、大切な存在を失ったときに自然に起こりうる反応です。

心に現れやすいサイン

こうした反応も、無気力と同じ喪失反応の延長線上にあるものです。

ポイント
  • 涙が急に出てくる
  • 仕事中に泣いてしまう
  • 何をしても集中できない

仕事や家事の最中にふとあの子の顔や思い出が頭に浮かんで、涙をこらえきれなくなる。そんな経験をした方も少なくありません。感情の波は自分でコントロールしきれるものではなく、涙がでるのはそれだけ大切な存在だという証でもあります。

体に現れやすいサイン

眠れない、頭痛や吐き気がする、息苦しさを感じるといった不調は、ペットロスによる自律神経の乱れとして現れやすい身体反応です。

夜、布団に入っても目が冴えてしまい、明け方近くまで眠れない。そんな夜を過ごしている方もいるでしょう。心と体はつながっているため、悲しみやつらさが体の不調として表れることは自然な流れです。

苦しさがとくに強いときのサイン

気が狂いそうだと感じる、後を追いたいと思うほど辛い。そこまで強い感情がわいてくることもあります。

それほど深く、あなたはその子を愛していたということです。ただ、この段階の苦しさは一人で抱え込むには重すぎることがあります。

注意

もしそのような気持ちが続くようであれば、心療内科や専門のカウンセリングなど、第三者の力を借りることも考えてみてください。

布辻真規
公認心理師・臨床心理士布辻真規

心療内科やカウンセリングは、もしかしたらハードルが高く感じられるかもしれません。

心療内科クリニックで勤務していた際、「ハードルが高いと思っていたけれど、もっと早く来ていたらよかった」とお話しされる患者さんがいらっしゃいました。

必要な際は、治療方針なども相談しながら決められるところをご検討いただければと思います。

無気力症状は時間差でくることがある・繰り返すように見える理由

無気力は、亡くなった直後だけに起こるものではありません。数日、数週間、数年、数十年経ってからつらくなることもあります。

ペットが他界した直後は、葬儀の手配や周囲への連絡など、やるべきことに追われて気を張っていた方も多いのではないでしょうか。その慌ただしさが一段落したころ、ふと力が抜けて何もできなくなる。そうした時間差で表れる症状は、決して珍しいことではありません。

また、一度落ち着いたように感じても、散歩の時間になった瞬間、おもちゃやリードが目に入った瞬間、季節が変わって同じ景色を見た瞬間、そうした様々なきっかけで、また涙があふれ、無気力な状態に戻ることがあるのです。

「もう大丈夫だと思っていたのに」と、自分を責めたくなるかもしれません。ですが、心の回復は一直線に進むものではなく、波のように引いたり満ちたりしながら少しずつ進んでいくものだと考えられています。

ポイント
  • 前に進んだと思ったら少し戻る。それもまた、あなたの心が丁寧に喪失と向き合っている過程です
  • 時間の経過だけを基準に「もう泣かないはず」「もう元気になっているはず」と焦る必要はありません

もっとも、こうした波は誰にでも同じ形で訪れるわけではありません。

無気力から少しずつ前へ進むために

無気力な状態から抜け出すために、大きな決意や特別な行動は必要ありません。小さなことを一つずつ積み重ねていくだけで十分です。

今日からできる小さなこと

まずは生活リズムを整えることから始めてみてください。決まった時間に起きる、簡単でも食事をとる。それだけでも、心と体を少しずつ整えていく助けになります。

無理に元気を装う必要もありません。周りの人に心配されたくないという思いから、笑顔を作ってしまう方もいますが、それが余計に自分を疲れさせてしまうこともあります。今は元気でなくてもいい、そう自分を許すことも大切な一歩です。

布辻真規
公認心理師・臨床心理士布辻真規

周りの方は、ペットロスについて知らないために、どうしたら良いのかわからない気持ちになることがあります。

そのような場合、ペットロスに関する情報をホームページ等でご覧いただくことが、理解の助けになり得ます。

ただし、受け止め方には個人差がありますので、情報提供という形でお伝えされるのが良いかと思います。

悲しみを言葉にしてみることも、心を軽くする方法の一つです。誰かに話す、日記に書く、あの子への手紙を書いてみる。声や文字にすることで、心の中に留まっていた感情が少しずつ整理されていくことがあります。

頼ってよい専門的な支援

つらさが長く続くようであれば、専門的な支援に頼ることも選択肢の一つです。

心療内科では、必要に応じて心身の状態を診てもらうことができます。まずは相談してみることから始めてください。

また、ペットロスに特化したグリーフケアのカウンセリングという場もあります。ペットを失った悲しみは、人によっては周囲に理解されにくいと感じることもあるかもしれません。同じような経験を重ねてきた相手に話せることで、安心感を得られる場合もあります。

ポイント

Harucaでは、公認心理師または臨床心理士の資格を持つカウンセラーが、オンラインでお話をうかがっています。カウンセラー自身も、これまで5匹の愛犬を自宅で看取ってきました。同じ悲しみを知る者として、あなたのペースに寄り添いながら、お話をお聞きしています。

新しい子を迎えるかどうかは焦らなくていい

新しい子を迎えるかどうかについて、正しい答えはありません。

早い時期に新しい家族を迎える方もいれば、迎えないと決める方もいます。どちらの選択も、その人なりの向き合い方であり、優劣をつけられるものではありません。

周囲から「新しい子を迎えれば元気になるよ」と言われ、戸惑いを感じたことがある方もいるでしょう。それを決めるのはあなた自身であり、今すぐ結論を出す必要はありません。時間をかけて、自分の心に問いかけながら決めていけば十分です。

まとめ

喪失に直面して無気力になるのは、ごく自然なことです。何もする気になれず、ただ時間だけが過ぎていく。そんな自分を責めてしまう方も少なくありませんが、それは心が壊れてしまわないよう、静かに働いている証でもあります。

ここまでお伝えしてきたことを、あらためて振り返ります。

ポイント
  • ペットロスによる無気力は、多くの人に共通する自然な反応であること
  • 無気力は、心が壊れないために強制的に休みが必要だというサインであること
  • 涙や不眠、体調不良など、心と体にさまざまなサインが現れること
  • 無気力は時間差で訪れたり、繰り返すように見えたりすることがあること
  • 生活リズムを整える、言葉にするなど、小さな一歩から始めてよいこと

あなたが今感じている無気力は、心が壊れてしまわないように、静かに働いている証です。 頑張れない自分を責める必要はありません。回復には波があり、進んだり戻ったりを繰り返しながら、少しずつ前へ向かっていくものです。

もし、一人で抱えるには重すぎると感じたなら、誰かに話してみることも一つの道です。「相談するほどのことではない」と思う必要はありません。話がまとまっていなくても、涙が止まらないままでも構いません。その状態のまま話していただくための場所です。

Harucaのオンラインカウンセリングには、これまで5匹の愛犬を見送ってきた公認心理師が在籍しています。同じ悲しみを知る者として、あなたの言葉を急かさず、あなたのペースで受け止めます。

一人で無気力な時間を過ごしているなら、その気持ちを話せる場所があることを、どうか覚えておいてください。

布辻真規
公認心理師・臨床心理士布辻真規

私自身も、愛犬とのお別れを経験して、15年以上経った今でも考えたり思い出したりすることがあり、一緒に過ごした日々はずっと大切なのだと思っています。

必要な際は、お話しにきてくださることをお待ちしています。

布辻真規 監修者
公認心理師・臨床心理士 布辻真規

5匹の愛犬を看取ってきた公認心理師・臨床心理士。ペットロスに関するグリーフケアが強みであり、カウンセラーとして、公立高校・通信制高校でのカウンセリング・心理的コンサルテーション、心療内科でのリワーク、子育て支援室での発達心理相談、流産・死産経験者のピアグループのサポートなど、多様な現場で心理支援に携わる。